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 あすかホームケアクリック院長より

「はじめまして、あすかホームケア院長の黒木です」
こんにちは、この度、あすかホームケアクリニックの院長に就任いたしました、黒木卓馬と申します。専門は脳神経内科で、総合内科専門医も取得しています。
大学病院では多くの神経難病など慢性期疾患の方はもちろんのこと、救急外来で多くの急性期疾患の方の診療にも携わってきましたが、学生時代から患者さんと密に関わることができる地域医療に興味があり、学位を取得した後は在宅医療に携わってきました。
そのような経験を活かすべく当院では、いつでも気軽に相談できる、困った時には頼りになる、地域の中でそんな存在であり続けたいと思い日々診療に当たっています。地域の皆様にとって、心強い支えとなり、安心して生活できるような医療を提供したいと考えています。
明るくも真摯に、地域の皆様と共に医療に取り組でいき、皆様の健康的でより良い生活の支えとなるよう尽力して参ります。
今後ともどうぞよろしくお願い致します。

あすかホームケアクリニック
院長 黒木卓馬

●訪問診療対応エリア●
北区・板橋区・豊島区全域
足立区・文京区・荒川区・練馬区・新宿区・川口市、戸田市の一部地域
お気軽にお問合せ下さい
TEL:03-5963-5980
FAX:03-5963-5981
Mail: asuka@homecareclinic.or.jp

聴診器・キーホルダーイメージ

 第2回城南地区在宅医療ネットワークを開催いたしました

2023年12月7日に第2回城南地区在宅医療ネットワークを開催いたしました。

今回は「一から知ろう!パーキンソン病」というテーマで脳神経内科センター長の大中先生にレクチャーをしていただきました。

城南地区ネット

今回もパーキンソン病をテーマにグループワークを交えた勉強会を行いました。実際の患者さんのケースを元に、患者さんが困っている症状は何か、日常生活のどこに不自由しているのかなどみなさん積極的に討議に参加していただき、とても有意義な会ができたかと思います。個人的には藤元先生のジスキネジアのクオリティにびっくりしました。また、パーキンソン病と口腔状態というテーマで歯科の郡司先生にもお話しをいただきました。嚥下障害の疑似体験、とても勉強になりました。

第2回城南地区在宅医療ネットワーク①
第2回城南地区在宅医療ネットワーク②
第2回城南地区在宅医療ネットワーク③
第2回城南地区在宅医療ネットワーク④
第2回城南地区在宅医療ネットワーク⑤

2040年問題という大きな壁が立ちはだかる状況ですが、城南地区の在宅医療へ関わるスタッフの方々の熱い思いがあればきっと良いネットワークができ、総力戦で乗り切ることができると確信しています。

今回集まっていただいた方々だけでなく、たくさんの人とのご縁を大切にして全国へ発信できる在宅医療ネットワークを目指していきたいと思います。
今後ともよろしくお願いいたします。

城南地区在宅医療ネットワーク 責任者 
教育委員長 リウマチ・膠原病センター 古屋秀和

 第10回 Houyukai Link Lectureを開催しました!

2023年11月30日に「第10回 Houyukai Link Lecture」を開催しました。
今回は脳神経内科センター 長谷川幸祐先生に担当していただきました!

今回のテーマは。。
「自律神経とレビー小体病」
自律神経異常の病態生理からαシヌクレイン蛋白の異常沈着によるレビー小体沈着と疾患の表現型の違いまで、レビー小体病という疾患スペクトラムについて詳しくお話ししていただきました!

長谷川先生の講義風景

長谷川先生の講義風景

今回の要点
普段なかなか聞くことのできない神経疾患の詳しいところを聞くことができてとても勉強になりました!そして、レビー小体病の考え方と抗核抗体陽性の疾患群の考え方って似ているなあとこっそり思いました。

  • パーキンソン病やレビー小体型認知症は、レビー小体が沈着するという点でレビー小体病としてまとめられる
  • レビー小体の正体はαシヌクレイン蛋白の異常沈着による
  • レビー小体が体のどの部位に沈着するかで症状に違いがみられる
  • 自律神経症状はレビー小体病の前駆症状として重要である

荏原ホームケアクリニックでは各センター間や医師・アシスタント間の垣根を越えて、ともに成長し、良質な医療者を輩出するための取り組みをしています。その一つの取り組みとしてのHouyukai Link Lectureも3ヶ月に1回定期的に開催していく予定です。これからも学びを止めることなく日々研鑽を積んでいきたいと思います。

今後もスタッフ一同高いモチベーションを持ち頑張っていきます!

 謎解きゲームをしていたら、よく見かける場所が〇〇だった発見!

散歩と食べ歩きが好きで、休日は運動がてら1時間以上の散歩に出かけます。
最近は謎解きゲームが好きで、先日都内の美術館を巡りながら謎を解くゲームに参加してきました。

謎解きを進めていくと、「次は目黒駅で下車」の指示が。
ん?目黒駅に美術館ってあったかしら?寄生虫館しか知らないなぁ。
と疑問に思いながら目的地へ歩いていくと・・・

いつも診察の移動で通り過ぎる大通りが見えてきました。
緑が多く気持ちよさそうな公園だと思っていた場所が実は「東京都庭園美術館」だと判明!
驚いてGoogleマップを二度見しました。
庭園美術館だったのか・・・!

診療アシスタントとして入職し、車の運転を日常的にするようになってから街を見る景色が変わった気がします。
駅から離れており交通の便は車が良さそうなカフェを発見した時は、どんなお客さんが来るのか気になり、次の休みに行く計画を立てたり。

大通りから一本入った小道に地元の人で賑わうパン屋やカフェを見つけたりすると、新しい世界を発見できたような楽しさがあります。
写真のお菓子はずっと気になっていたチョコレート専門店「CACAOCAT」で購入したチョコレート。
真ん中にフレーバーソースが入っており、美味しかったです。

チョコレート写真

 アシスタントの同行ファッション例(春・夏)

オールシーズン共通で「動きやすさ重視」のファッションになっていると思います。
トップスは襟付きのポロシャツor医療用スクラブ。下はズボン。
寒暖の差がまだある春・近年は酷暑で暑さと紫外線対策の夏。
この2シーズンのファッション例を一部としてご紹介していきます。

春のファッション例
暖かい日が多くなってきつつも油断するとまだ寒い日もあったりします。
薄めの上着とインナーにヒートテックを着用。
暑い日はヒートテックなし。半袖に上着で同行に出たりします。
私は上着のポケットにアルコール綿やビニール袋などサッと取り出せるものを入れているので、上着はどの季節でも必須アイテムになっています。

春のファッション・コーディネートイメージ

夏のファッション例
近年は酷暑!!36.0℃以上の外を歩いたり、階段を上ったり・・・外にいるだけで体力を消耗が激しいです。
私が幼かったころと比べると気温が違いすぎると思います。
サラッと着れるスクラブ、日焼け対策でアームカバー。
帽子をかぶって同行に出ていくスタッフもいました。

夏のファッション・コーディネートイメージ

写真のスクラブは脇の部分がメッシュになっているので発汗性がとっても良いです!

通勤時、駅からクリニックまでの距離も日傘をさしてます。強い日差しを遮るだけでも歩くのが少し楽になります。
最近は雨傘兼用の日傘、軽量化された日傘、紫外線カットに強化された日傘など沢山の種類を見かけます。
窓を開けて換気するのも大事ですが、外の風が熱風の時もあるので・・・冷房25.0~27.0℃設定で涼む方が体には良いかもしれませんね。

次回は秋・冬のファッション例をご紹介★

追伸:
スクラブという言葉を知らず、先輩に質問した記憶があります。
改めてスクラブとはどんな意味なのか調べてみました。

“半袖で首元がVネックとなっている医療用白衣のことを指す。
主に医療従事者が着用する。「ごしごし洗う」といった意味である「スクラブ」を語源としており、頑丈な素材が使用されているため、強く洗っても生地が傷みにくいことが特徴である。また、従来型の白衣よりもカラーバリエーションが豊富であり、病院内でのチーム分けや患者からの視認性向上のために使用される場面も多い。“ Wikipedia参照。

カラーバリエーションが豊富のようなので、これからは先生方のスクラブファッションにも着目してみようと思います!

 肺の聴診②副雑音~連続性ラ音~

荏原ホームケアクリニック リウマチ・膠原病センターの古屋です。
前回「正常呼吸音」についてお話させていただきましたが、今回から副雑音についてお話しようと思います。副雑音1回目は連続性ラ音です。連続性ラ音を理解するためには解剖学的、組織学的な気管支や肺胞の特徴と換気力学の知識が必要です。ここをしっかり理解すると病態の考察が深くなります。今回の目標は「聴診所見から診断名をつけるのではなく、病態を推測する!」です。

胸部の解剖 肺の位置

前回も解剖の確認をしましたが、重要な事なので再度肺・胸郭の解剖を再度確認しましょう。聴診を行う時は、「胸郭の内側・肺の状態をイメージする」ことに加え、換気力学や気道の解剖・組織学の知識が重要です。まず、体表から胸膜腔と肺の状態を推定します。
触診可能な体表の指標により、胸膜腔と肺の正常な輪郭の位置を知り、肺葉と肺裂の位置を推定することができます。上方では、壁側胸膜が第一肋骨の上方へ突出しており、胸骨下部の後方では、心臓が左側にある関係で左臓側胸膜は右ほど正中線には近づいてはいません。下方で、胸膜は横隔膜上の肋骨弓で折り返しています。下の図のように、背部から見てみると、胸膜腔はTh12のあたりまで存在しています。肺尖部はTh1付近、肺の上葉と下葉を分ける斜裂(Oblique fissure)は背部正中近くでTh4の棘突起の高さにあります。斜裂は外側下方へ向かって移行し第4,5肋間隙を横切り、外側では第6肋骨に達します。また、前回やりましたが肩甲骨下角はTh7-9、腸骨稜頂上部がL4に相当し、その二つを結んだ直線の中点がおおよそのTh12に相当、そこが肺底部でした。さらに前胸部から側胸部第4-6肋間が中葉、舌区に相当します。これらのメルクマールを意識して聴診を行っていきます。
解剖を知ることは聴診において重要な事です。例えば中葉の気管支拡張症、下葉の間質背肺炎、気道内異物など好発部位がある疾患と部位の特定が必要な病態に関しては聴診上最強点の同定する必要があります。対して細菌性肺炎の細かい部位に関しては同定する必要はなく(かなり難しいとは思いますが仮に同定できても治療はほとんど変わりません。右か左かだけで十分です。)、むしろ緊急性の評価を行い早急に対応する事の方がもっと重要です。

胸部の体表解剖(ネッター解剖学アトラス)

イメージ:胸部の体表解剖(ネッター解剖学アトラス)
簡略化すると下の図の通りです。
胸部の体表解剖(ネッター解剖学アトラス)の簡略化イメージ
肺・気管支の細かい解剖や組織学的な特徴は病態を考えながら適宜説明していきます。

副雑音の分類

今回は連続性ラ音についてお話していきますが、そもそもラ音とは何でしょうか。肺胞呼吸音由来の副雑音の事をドイツ語でRasselgeräuschと表記します。それを語源として、昔の日本では副雑音の事をラッセル音と言っていました。それを略してラ音です。背景を知らないと意味が分からない言葉がたくさんあります。日本人は略語が好きですね。
まずは副雑音の分類から見ていきます。
イメージ:副雑音の分類
副雑音は連続性ラ音、断続性ラ音に分けられます。今回は連続性ラ音についてお話します。 連続性ラ音とはその名の通り連続している雑音の事です。連続性ラ音はさらにstridor、squawk、wheezes、rhonchiに分類されます。実は、国際肺音学会(ILSA:the International Lung Sounds Association)でも呼吸音に関しては一定のコンセンサスは定まっておらず、日本人医師である三上医師の提唱した案が一般的に使用されており、いまだに1987年の三上医師の論文が参考文献に登場します。このことから、肺音に関してはものにより分類が多少異なりますが、今回はアメリカ胸部学会(American Thoracic Society : ATS)の推奨を参考にして、上の表のような分類で進めていきます。

連続性ラ音の発生機序

連続性ラ音とはATSの提案では250ms以上持続する雑音としていますが、「ある程度長く続く高い音もしくは低い音」程度の理解で十分です。その発生機序ですが、気道の一部に狭窄が生じると、その部位で気流速度が上がりますが、気流と気道壁の相互作用(振動)により音が発生すると言われています。要するに口笛と同じです。口をすぼめて息を吐きだすとピーと音がしますが、気管支も狭窄するとピーと音がするわけです。音の発生源は呼吸音と同じく乱流領域です。
イメージ:連続性ラ音の発生機序
基本的には胸腔内が陽圧になるときに気管支は押しつぶされて狭窄が強くなるので、聴取されるのは呼気時です。しかし、狭窄が強くなり、より重症な病態になれば吸気時にも聴取されます。それに対して、Stridorは吸気時のみに聴取されるものですが、その考え方は下記の通りです。

Stridorとは?

連続性ラ音の分類をもう一度見てみましょう。これらの所見を大きく二つに分けるとしたら下の通りになります。
イメージ:連続性ラ音の分類

このように、大きく分けるとstridorとそれ以外になります。これは、病変部位が胸腔内か胸腔外かで分けています。病変が胸腔外であればstridor、他はすべて胸腔内の病態で得られる所見です。
Stridorは声帯よりも上部の気道の狭窄が生じた際に聴取される音で、音の聞こえ方としてはwheezesと同様です。wheezesとの違いは①吸気時に聴取②頚部で最強という事です。この違い、特に吸気時に聴取される理由は下の図の通りです。まず吸気時には横隔膜が収縮する事で胸腔内が陰圧になります。それに伴い胸腔内に空気が引き込まれ、引っ張られるような形で胸腔外の気道はへこむ訳です。

イメージ:Stridor
Stridorが聴取されたら病変は喉のあたりになるので、鑑別は急性喉頭蓋炎、喉頭浮腫、気道異物、小児ならクループなどです。危ない病態も隠れているので評価は慎重に行う必要があります。ただし、注意点としては喘息のwheezesはじめ他の疾患でも吸気時の連続性ラ音は聴取される事があるため最強点がどこなのかというのもしっかり評価が必要です。

rhonchiとwheezesから気道狭窄の部位と病態を予測する!

ここからはrhonchiとwheezesの話をしていきますが、それに伴いまず気管・気管支の解剖、組織学的な特徴を確認します。気管や気管支は平滑筋という筋肉でできている管腔臓器であるため、広がったり縮んだりします。しかし、過度に広がったり縮んだりすると問題が生じるので、それを制御する機能があります。その一つが気管軟骨です。気道の解剖を見てみると中枢気道(気管)とそれ以降の気管支の構造が違うことに気づきます。気管軟骨は気管ではC字型で気管をしっかり取り巻いていますが、主気管支から葉気管支以降になると軟骨はまばらになります。このまばらな軟骨の事を軟骨片と言います。軟骨は終末細気管支より抹消ではなくなり、肺胞管、肺胞となります。なぜこのような構造になっているのかというと、気管はつぶれたら死んでしまうのでしっかり固める、肺へ向かう気管支は空気を効率よく肺胞まで送り出す必要があるためある程度拡張するようになっています。終末細気管支以降はガス交換を行うところなので、軟骨があると逆に効率が悪くなるので軟骨はありません。気道は中枢の方は固くできていますが、抹消にいけばいくほど柔らかくなっているという事です。

イメージ:rhonchiとwheezesから気道狭窄の部位と病態を予測
また、気管支や肺は拡張したり縮んだりした後に元の形に戻るようになっています。気管支や肺は形状記憶できるようになっており、それをさせているのが弾性繊維です。気管や気管支は弾性繊維を巻き付けながら走行しており、過度な形の変化を防いでいます。また、交感神経と副交感神経が気管支に並走しており、その調節に関与しています。緻密に計算された非常によくできた臓器です。

その気管支が狭窄することで生じる音がwheezesやrhonchiです。音の特徴としては、wheezesは高い音でrhonchiは低い音になります。その音の違いは狭窄している気管支の太さによります。これは口笛を想像すると理解がしやすいと思います。例えば、高い音を口笛で出したいときは口をとがらせますが、低い音を出したいときは少し口を開きます。同じように細い気管支が狭窄すると高い音(wheezes)が、太い気管支が狭窄すると低い音(rhonchi)が聴取されるといった具合です。
イメージ:rhonchiとwheezesから気道狭窄の部位と病態を予測・肺胞

Stridorの時は吸気時に狭窄が強くなるため、聴取されるのは吸気時でしたが、wheezesとrhonchiは吸気呼気ともに聴取されます。胸腔内の気管支は胸腔内が陽圧になると狭窄が強くなるため呼気時に聴取する(下図)というのが原則ですが、病態によっては吸気時にも聴取されます。

イメージ:rhonchiとwheezesから気道狭窄の部位と病態を予測

例えば気管支喘息の発作が起きた時を考えます。先ほど確認した通り気管支は末梢にいけばいくほど柔らかくなるので、末梢の方から狭窄していきます。発作のごく初期の非常に軽いフェーズでは狭窄も軽度であるため通常の呼吸では連続性ラ音は聴取されません。このフェーズで発作を捕まえるためには強制呼出をさせ胸腔内を強制的に強い陽圧にすることで誘発されるwheezesを聴取し、診断します。さらに狭窄が強くなれば平静呼気時に聴取されるようになり、いずれは吸気時にも聴取されます。吸気時に聴取される病態としては、胸腔内が陰圧になり、胸腔内の気管支が拡張する訳ですが、それでも狭窄が解除されないほど進行している状態ということになります。また、発作が重症であればあるほど狭窄している気管支も、より太い気管支まで障害されるためwheezesとrhonchiが混在したような音が聴取されるようになります。最重症の状態になるとラ音が聴取されなくなります。(連続性ラ音が発生するためには十分な空気の流速が必要であり、狭窄が非常に強い場合は十分な流速が確保できないのでラ音が消失します。)フェーズにより聴診所見は変化しますが、それを重症度として分類したものがJónsson分類 です。これを用いて「〇度のwheezesを聴取」のように記載します。

グラフイメージ:Jónsson分類

さらにwheezesを聴取する疾患は気管支喘息だけではありません。細い気管支が狭窄すれば音が発生するため、細い気管支が狭窄する病態を考えます。代表的な疾患が心不全・肺水腫です。左室ないしは左房圧の上昇により、肺毛細血管圧が上昇。血症浸透圧を越えて肺毛細血管圧が上昇すると肺の間質に水が溜まります。その水が末梢気道を圧迫することで気管支狭窄が起き、wheezesが聴取されます。(下図)

イメージ:心不全・肺水腫
Wheezes=気管支喘息と決めつけてしまうと心不全であったときに痛い目を見ます。発作と考えステロイド+β刺激薬+場合によりアドレナリン。。。すべて心不全を悪化させる治療ですから、判断は慎重に行う必要があります。心不全を見抜くには他の視診、触診、心音に加え既往歴、内服歴などを考慮し総合的に判断することが必要です。
次にrhonchiについて見ていきます。rhonchiを呈する疾患の代表格は肺気腫です。肺気腫は肺胞構造が破壊され肺が過膨張の状態になる疾患であると学生の時は教わりました。また、肺気腫は慢性閉塞性肺疾患と言われており、学生の時は過膨張するのに閉塞ってどういう事??って思ったものです。それを理解するため、肺気腫の病態を下の図で簡略化して説明しておきます。
イメージ:肺気腫の病態
原因はみなさんご存じタバコです。有害なタバコの粒子が肺胞へ到達すると①肺胞マクロファージに貪食され炎症性メディエーターが放出されます。それに伴い②好中球が遊走し③タンパク分解酵素を放出します。④それにより破壊されるのがエラスチンと呼ばれる弾性繊維です。エラスチンは先ほど解剖の確認でも登場した形状記憶するために必須の構造なので、そのエラスチンが破壊されると肺胞は通常の構造を保つことができず膨れ上がり壊れます。ただし、我々の体にはタンパク分解酵素を抑制してくれるα1アンチトリプシンという防御機構がありエラスチンが破壊されるのを防いでくれるので肺気腫にはならないようになっています。しかし、喫煙自体がα1アンチトリプシンの活性を低下させてしまうため、日常的に喫煙している方は肺が壊れやすくなってしまいます。タバコは百害あって一利なしです。
イメージ:肺気腫の病態

肺が過膨張になると、①肺胞が絶えず外側に膨れ上がろうとするので、②その分空気が気管支側から引き込まれます。それに伴い③比較的太い気管支が引っ張られて狭窄するためrhonchiが聴取されるという事です。さらには慢性の気道炎症と気管支壁の肥厚、分泌物の増加などもrhonchiの原因の一助となっています。
ちなみに気道の分泌物(痰)のみでもrhonchiを聴取しますが、咳をしてもらうと音が変化する(うまくいけば消える)事で分かります。また痰の場合は単音性(monophonic)(下でお話します)になる事が多く、閉塞性肺疾患の病態とは分けることが可能です。

単音性(monophonic)と多音性(polyphonic)を意識する

連続性ラ音を聴診、評価する際に単音性(monophonic)、多音性(polyphonic)という考え方が重要です。ある一部で聞こえる単一の音を単音性(monophonic)と言い「ピー」という感じで聞こえます。そして、どこで聞いても聞こえる、たくさんの音が一斉に始まり一斉に終わる(厳密には少しずれますが)「ビュービュー」みたいな音が多音性(polyphonic)と言います。これは擬音語で表現するのはかなり無理があるのでyoutubeや教科書(川城丈夫 先生の「CDによる聴診トレーニング 呼吸音編 改訂第2版」 、皿谷健先生の「まるわかり!肺音聴診 聴診ポイントから診断アプローチまで」がおすすめです!)を活用して実際に聞いてみるのが良いと思います。 単音性と多音性を区別するのはなぜかというと、聞こえ方により鑑別診断が全然変わってくるからです。たとえば単音性のwheezesを聴取した場合に気管支喘息の疑いと言えるでしょうか。単音性というのはある一部の気管支が狭窄していることを示唆するので、気管支喘息のようにびまん性に狭窄が生じる疾患の可能性は低いでしょう。どちらかというと、気道内異物や喀痰、肺腫瘍による圧迫・狭窄などが鑑別に上がると思います。(ちなみに吸気・呼気のどちらでも一定の単音性のラ音が聴取される場合は、より肺腫瘍の存在を疑うことになります。)rhonchiも同様です。
イメージ:単音性(monophonic)と多音性(polyphonic)

ここまで連続性ラ音について見てきましたが、聴診して診断名を決めるというよりは、聴診所見を考察して病態を考える事が重要です。診断を焦るのは誤診の元になります。聴診所見から音の高いor低い、単音性or多音性を確認してどこに狭窄がどの程度の範囲にあるのかを推測し、その病態を考え、自分が考えている診断と矛盾がないかを照らし合わせるというステップを毎回踏む必要があります。病態により対応は全く異なります。(気道内異物と気管支喘息の発作では全く違いますね。)

squawkは解剖学的理解の応用編

私はリウマチ膠原病内科なので関節リウマチの患者さんを多く診察しているのですが、関節リウマチの患者さんは気管支拡張症の合併が多く、診察の際も良く遭遇します。気管支拡張症で聴取される頻度の高い所見がsquawkです。Squawkとは吸気時のcrackleに続くshort wheezesであり、その機序は下記の図の通りです。
イメージ:squawk解剖学的理解
まず、気管支拡張症は①慢性気管支炎による慢性炎症に伴い、気管支の構造が破壊され拡張します。その結果②圧勾配(拡張した気管支側に引っ張られます)が生まれ、末梢の気道は狭窄(閉塞)しています。③吸気により狭窄している抹消気道が開放されcrackleが聴取され、それに引き続いて④細い気道内に強い乱流が生じるためwheezeが生じます。吸気をしていくとともに胸腔内は陰圧になり、気道も開放されていくためwheezeは消失します。(short wheeze)ただし、気管支拡張症の診断がついていない場合は、この所見から病態を推定しなければいけません。この場合も聴診所見を解剖学的、組織学的に考察し病態が推測できれば鑑別診断としての気管支拡張症も想起できます。

Squawkは気管支拡張症に特異的な所見ではなく、むしろ一般的には肺炎で聴取されることが多いと思います。肺炎により末梢気道に分泌物がつまり末梢気道が閉塞、その後吸気に伴い末梢気道が開放しshort wheezeが生じるという具合です。(ここで生じるラ音は単音性なのであえてcrackle、wheezeと単数形で記載しています。上の分類ではすべて複数形での記載になっていますが、このように単音性の場合は所見も単数形で記載する方がしっくりきますね。正直monophonic wheezesって何だか違和感あります。) 以上のように聴診所見を解剖学的、組織学的に理解すると考察が深くなり、さらには誤診が減るように思います。「聴診所見から診断名をつけるのではなく、病態を推測する!」これが重要です。

<今回のまとめ>

  1. 聴診を行う際は解剖学的な理解をする。
  2. 連続性ラ音の聴診は、音の高いor低い、単音性(monophonic)or多音性(polyphonic)を確認
  3. 聴診所見から診断はつけない、病態を推測する。

今回は肺の聴診②副雑音~連続性ラ音~について考えてみました。患者さんの呼吸状態を把握する上で、聴診は重要であり、正常からの逸脱を意識することでさらに病態の理解が深まります。
最後にもう一度言いますが、「聴診所見から診断名をつけるのではなく、病態を推測する!」これが重要です。日々訓練をしながら正確な評価ができるようにしていきたいですね。
身体診察はやればやるほど奥が深い!

次回は肺の聴診③副雑音~断続性ラ音~について考えてみようと思います。

<参考文献>

  • ガイトン生理学 原著第13版
  • トートラ人体の構造と機能 第4版
  • グレイ解剖学 原著第4版
  • マクギーのフィジカル診断学 原著第4版
  • まるわかり!肺音聴診 聴診ポイントから診断アプローチまで
  • サパイラ 身体診察のアートとサイエンス 原著第4版
  • 身体所見のメカニズム-A to Zハンドブック

 2023年度日本在宅医療連合学会専門医試験のご報告

皆さん暑い日が続いていますね。緩和ケアセンターの川口です。
さて当院は様々な学会認定施設となっております。
日本在宅医療連合学会の認定施設にもなっており、専門医研修プログラムを有しております。
当院の古屋医師がプログラムを終了し本年度の専門医試験に見事合格いたしました!
ポートフォリオ作成、他の医療機関研修など日々の診療の合間の中でとても多忙な1年間だったと思います。
おめでとうございます!
これで専門医は2名となりました。
今後、在宅医療連合学会専門医を取得したい若手医師が当院に入職してくれることを期待しています。
写真ですが欠かさず筋トレをすると我々のような肉体を作ることもできます!
夏を乗り切るのは・・・筋肉です!!

日本在宅医療連合学会 専門医試験合格・写真:川口医師と古屋医師

 肺の聴診①~正常呼吸音~

荏原ホームケアクリニック リウマチ・膠原病センターの古屋です。

前回「胸部の打診」についてお話させていただきましたが、今回から「肺の聴診」についてお話しようと思います。これまで触診、打診ときましたがいよいよ聴診です。聴診もこれまで同様に解剖学的、組織学的な気管支や肺胞の特徴と換気力学を理解することで、さらに理解が深まります。まず今回は聴診①として正常な呼吸音について考えていきたいと思います。

聴診をするその前に

René-Théophile-Hyacinthe Laennec (1781-1826)
René-Théophile-Hyacinthe Laennec (1781-1826)

聴診を考える上で外せないのはRené-Théophile-Hyacinthe Laennec (1781-1826)です。当時は患者さんの胸に耳をあてて聴く「直接聴診法」が主流で、医師はハンカチ(その上から耳を当てるため)を懐に忍ばせていました。この直接聴診法に対して間接聴診法を考案したのがLaennec医師です。
Laennec医師は自身の論文でこのように記しています。「木片の一端に耳を押し当てると、もう一端をピンで引っかいた音がよく聞こえるということである。そこで私は紙を丸めて筒状にし、一端を心臓のあたりに押し当て、もう一端を私の耳にあてた。すると心臓の鼓動が耳を直接押し当てたときよりはっきり聞こえた。」さらに、これに加えて子供たちが長い中空の棒を使って遊ぶ様子を見たことがあり、それが聴診器の発明に繋がったと言われています。打診のAuenbrugger医師もワインの樽からヒントを得て診察手技を考えたと言われていますが、Laennec医師もすごいです。普段何気なく見ている光景の中に診療のヒントが隠れているかもしれませんね。非常に勉強になります。

世界初の聴診器は1816年に発明されました。これは長さ25cmの木の筒(図右)だったようです。
このように聴診器を用いて行う聴診方法を直接聴診法と対比させ「間接聴診法」としました。
また、Laennec医師は聴診器から聞こえる音を色々分類しました。rales、rhonchi、crepitanceなど命名しそれは現在でも使われています。聴診器は当初はなかなか受け入れられなかったようですが、現在聴診器は診察に不可欠なものになっています。もし聴診器がなかったらと思うとゾッとしますね。Laennec医師はまさに聴診王と言えるでしょう。そのLaennec医師も最期は自らの発明した聴診器で肺結核と診断されこの世を去りました。

最近の聴診器は?

聴診器イメージ
1816年に発明された聴診器は木の筒のようなものでしたが、現在は大きく進化しています。現在の聴診器はチェストピース、チューブ、耳管部の3つに分かれておりチェストピースもベルとダイアフラムに分かれています。音の聞こえ方もステレオタイプのものもあり、かなり進化していますね。私はケンツメディコのラパポート聴診器が好きで昔から愛用しています。ちなみにベル型は全ての周波数を聴くことができますが、ダイアフラムは低音域を遮断するため高音域を聴くのに適しています。呼吸音を聞くのはすべてダイアフラムを使用します。
電子聴診器イメージ
また、最近では電子聴診器というものもあります。写真の機械からパソコンに音を入力し保存できます。それをすることで所見の経時的な評価にも役立つ他、カルテの表現だけでは伝わりにくいことも他の医師へ伝える事ができます。さらには音の波形を作ってくれるので病態の考察がさらに深くでき、患者さんに聞いてもらう事で患者さん自身の病態理解にもつながります。様々な最新の医療機器ができてきており在宅医療の診療の質もどんどん上がっていく事と思います。これからが楽しみです。

胸部の解剖 肺の位置

前回胸部の打診でも確認しましたが、診察手技の前にまず肺・胸郭の解剖を再度確認しましょう。聴診を行う時は、「胸郭の内側・肺の状態をイメージする」ことに加え、換気力学や気道の解剖・組織学の知識が重要です。まず、体表から胸膜腔と肺の状態を推定します。
触診可能な体表の指標により、胸膜腔と肺の正常な輪郭の位置を知り、肺葉と肺裂の位置を推定することができます。上方では、壁側胸膜が第一肋骨の上方へ突出しており、胸骨下部の後方では、心臓が左側にある関係で左臓側胸膜は右ほど正中線には近づいてはいません。下方で、胸膜は横隔膜上の肋骨弓で折り返しています。下の図のように、背部から見てみると、胸膜腔はTh12のあたりまで存在しています。肺尖部はTh1付近、肺の上葉と下葉を分ける斜裂(Oblique fissure)は背部正中近くでTh4の棘突起の高さにあります。斜裂は外側下方へ向かって移行し第4,5肋間隙を横切り、外側では第6肋骨に達します。また、前回やりましたが肩甲骨下角はTh7-9、腸骨稜頂上部がL4に相当し、その二つを結んだ直線の中点がおおよそのTh12に相当、そこが肺底部でした。さらに前胸部から側胸部第4-6肋間が中葉、舌区に相当します。これらのメルクマールを意識して聴診を行っていきます。

胸部の体表解剖(ネッター解剖学アトラス)

イメージ:胸部の体表解剖(ネッター解剖学アトラス)
簡略化すると下の図の通りです。
胸部の体表解剖(ネッター解剖学アトラス)の簡略化イメージ

聴診部位と聴診のポイント

肺のイメージができたら、いよいよ聴診していきます。聴診部位に関しては先ほどのメルクマールを元に前胸部、背部ともに以下の8か所となります。これらの部位を左右比較しながら聴診していきます。
聴診部位と聴診のポイントイメージ図
まず前胸部に関しては頸部から聴診していき、上葉にあたる③、④、中葉・舌区にあたる⑤、⑥、下葉の⑦、⑧の順に比較しながら聴診していきます。この時、頚部に関しては血管雑音や心雑音の放散の音なども同時に聴診していくため左右聴診が必要です。それらが認められなければ、頚部はどちらか一か所で構いません。背部に関しては、上葉から下葉にかけて聴診をしていきますが、肩甲骨の部分は聴診できないのでそれより内側を聴診するのと、特に下肺野に注意しながら聴診していきます。下肺野は間質性肺炎の好発部位なのと、誤嚥性肺炎も起こしやすい部位です。さらには胸水の検出に関しても重要な部分なのでしっかり聴診します。注意しなければいけないのは肺底部の気管支は安静時には虚脱している事が多く、吸気時のfine cracklesを聴取する事があります。ただし、何度か深呼吸してもらうと音は消失してくるので病的なfine cracklesとは分けることができます。特に高齢者はこのような所見を多く認められます。

<聴診するときのポイント>
ここで普段聴診する上で意識しているポイントをお伝えします。

  1. 服の上からあてない
    服の上から聴診をすると服がすれる音が混入してしまい正確な判断ができません。当たり前の事ですが服は患者さんに配慮しながらきちんとめくる、もしくは脱いでもらう方が診察する上では望ましいです。(ただし、実際は服の下から手を入れて聴診することが多いように思います。その際もチューブ等に服が当たらないように注意します。)
  2. ダイヤフラムは跡がつくくらいしっかり押し当てる
    ダイヤフラムはしっかり密着していないと音を拾う事ができません。押し当てたときに丸い跡が残るくらい密着させるのが望ましいです。ただし、痩せている高齢者ではダイヤフラムが肋骨にあたってしまい、皮膚に完全に密着できない場合があります。その際は小児用の聴診器で聴診する、もしくは聴診器と体表の間に点滴(生理食塩水)などを入れて聴診すると聴診できます。点滴を挟むのはあくまで裏技的なものなのであまりお勧めはしていませんが、音は聴取可能です(体と皮膚の間に水分があるためそれを加味した評価になります。どちらかというと心音の聴取の時に使う事が多いです。)。
  3. 深呼吸させない、声掛けをする
    聴診の際には声掛けを行いますが、深呼吸はさせないようにしています。診察に慣れている患者さんであれば深呼吸してくださいという声掛けで上手に呼吸してもらえますが、はじめて診察する患者さんの場合は深呼吸はさせない方が無難です。というのも呼吸音は気道内の乱流により生じています。乱流の強さは流速によるので、深呼吸のようにゆっくりとした流速ではうまく聴診できない事が多いです。筒をくわえて息を吹き込むときにゆっくり吹くと音は小さく弱く聞こえますが、勢いよく吹くとしっかり強い音が聞こえることからも容易に想像できます。このことから聴診する場合は吸気と呼気をこちらで規定する、つまりは「すってー、はいてー」と声掛けをします。もしくは聞こえにくい場合は「勢いよく吸ってもらう」という事が必要です。呼吸音の考え方の詳細は下記に記載します。
  4. 正常からの逸脱」から病態を推測する
    病気とは正常からの逸脱なので、その所見が異常かどうかは正常から逸脱しているかどうかで判断します。つまりは正常呼吸音とは何か?を知っておく必要があります。
    普段聴診する場合には上のようなことを意識して聴診しています。
    次は正常呼吸音について考えていきます。

呼吸音の分類と正常呼吸音

ここからは呼吸音について考えます。病気とは正常からの逸脱であるとお話しましたが、何をもって正常と判断するのでしょうか。呼吸音は下のように分類されます。
呼吸音の分類と正常呼吸音の解説イメージ
そもそも呼吸音はどこから発生しているのかというと、多くは吸気時に葉気管支、区域気管支で発生しています。つまりは、口腔~第7-9分岐のあたりの気管支で発生します。第10分岐以降は呼吸音が発生しないことになっています。呼吸音が発生する部位を乱流領域といいます。(まるわかり!肺音聴診 聴診ポイントから診断アプローチまで)
吸音はどこから発生しているのか解説図
では正常呼吸音についてです。正常呼吸音はものにより分類が多少ことなりますが、気管呼吸音、気管支呼吸音、肺胞呼吸音に分けられます。それぞれの呼吸音は聴取される部位と音の高さが異なります。
吸音はどこから発生しているのか解説図2

この中で特に気管呼吸音と肺胞呼吸音の違いは最低限意識して聴診する必要があります。気管呼吸音は高い音ですが、肺胞呼吸音は低い音になります。意識して聞いてみると音が全然違うことが分かります。ではこの音の高低の違いは何が原因でしょうか。
呼吸音の伝達において肺胞の役割は外せません。肺胞には高い音を吸収してしまう音響フィルターの機能が備わっています。つまりは気管呼吸音の部位では高い音と低い音が混在していますが、肺胞を通過するときに高い音が吸収され、低い音のみが通過してくるということです。

吸音はどこから発生しているのか解説図3

ここで肺胞が壊れている場合はどうなるでしょう。肺胞呼吸音が聞こえるはずの聴診部位で高い音が聴取されることになります。この現象を肺胞呼吸音の気管呼吸音化と言います。間質性肺炎や肺線維症などで聴取された場合は線維化が強く、かなり進行している状態であると考えられます。もちろん通常の肺炎でも同様の病態が起きているのでこのような所見が得られます。(ただし一時的な所見となります。) このように、「正常からの逸脱」という事を意識すると病態がより深く理解できます。
ここまで気管呼吸音と肺胞呼吸音は聴診部位と音の高低が異なることをお話しましたが、吸気と呼気の聞こえる長さも異なります。気管呼吸音は吸気:呼気=1:1、肺胞呼吸音は吸気:呼気=2-3:1となります。良く閉塞性肺疾患(気管支喘息や肺気腫など)で呼気の延長という所見がありますが、この違いを知っておかないと評価が難しいです。他、間質性肺炎に関しても進行すると肺が膨らまなくなり吸気時間が短くなりますが、この違いの理解が必要です。ちなみに気管支呼吸音は吸気:呼気=1:2程度とされています。

吸音はどこから発生しているのか解説図4
このように正常呼吸音は分類があり、聴診部位により聞こえ方が異なります。 この違いを勉強して、研修医の時にひたすら頚部と背部の呼吸音を聴診して音の違いを耳に叩き込んだのをよく覚えています。あれから10年以上、あっという間に年をとりますね。。

<今回のまとめ>

  1. 胸聴診を行う際も解剖学的な理解をする。
  2. 正常呼吸音を知り、正常からの逸脱を意識した聴診を行う。
  3. 聴診部位により聴取される音の高さ、長さが異なる。
  4. 肺胞は高音を吸収する音響フィルターの役割。

今回は肺の聴診(正常呼吸音)について考えてみました。患者さんの呼吸状態を把握する上で、聴診は重要であり、正常からの逸脱を意識することでさらに病態の理解が深まります。身体診察全般に言えることですが、日々訓練をしながら正確な評価ができるようにしていきたいですね。身体診察はやればやるほど奥が深い!

次回は肺の聴診②副雑音の1回目として連続性ラ音について考えてみようと思います。

<参考文献>

  • ガイトン生理学 原著第13版
  • トートラ人体の構造と機能 第4版
  • グレイ解剖学 原著第4版
  • マクギーのフィジカル診断学 原著第4版
  • まるわかり!肺音聴診 聴診ポイントから診断アプローチまで
  • サパイラ 身体診察のアートとサイエンス 原著第4版
  • 身体所見のメカニズム-A to Zハンドブック