第5回 浮腫とは

誰もが経験したことのあるむくみ、浮腫について紹介したいと思います。

Q 浮腫(ふしゅ)とは??

『いわゆる「むくみ」のことを医療用語で浮腫といいます。

細胞組織の液体(細胞間質液)と血液の圧力バランスが崩れ、
細胞組織に水分が溜まって腫れてしまう状態のことを浮腫=むくみと言います。

皮下組織(皮膚の下部)に水がたまった状態で足や、すねなどを
指で圧迫する(押さえる)とその痕(あと)がなかなかもどらないような状態の時は、
身体に正常な時の体重の5~10%以上の水分の貯留があると言われています。
すなわち、普段の体重が60kgの人がむくみを認めた場合、
体重は63~66kg以上に増えているということになります。

浮腫が下腿に認めやすいのは、水分が重力の関係で身体の下の方へ
たまりやすくなるからです。
会社員の方がずっと椅子に座ってお仕事をしていると
夕方頃には足がむくんで来ますよね?
そのように寝たきりの人はずっと同じ姿勢でいるのですから
浮腫は背中や顔に出やすくなる、という事になるのです。

Q なぜ余計な水分が溜まるのか?

人間の身体には、全身を巡るように動脈、静脈の二つの血管と
リンパ管が張り巡らされています。
そして、心臓がポンプとなって送り出された血液は、動脈を通り
身体の隅々まで行き渡り、血液の血しょう成分が、細胞間の細胞間液になって
細胞に酸素や栄養を届けます。
酸素や栄養を届けた細胞間液は、次に細胞で使われた後の二酸化炭素や老廃物を回収し、再び血液の血しょう成分となり、静脈やリンパ管を通って心臓に戻ります。

この時、静脈の働きが悪いとリンパに送られる細胞間液(血しょう成分)の量が増えます。

浮腫の仕組みは、静脈がつまったり、リンパ液がスムーズに流れないことで、
細胞間液が血管に戻らず細胞と細胞の間に細胞間液、
いわゆる余分な水分(血しょう成分)が溜まってしまうことにより
それが“浮腫”という形になって現れるのです。

Q 浮腫の原因は??

浮腫は浮腫の起こっている場所によって全身性浮腫と局所性浮腫に分けられます。
<全身性浮腫の原因>

  1. (心臓病)心不全に伴う心臓性浮腫。
  2. (腎臓病)腎炎・腎不全に伴う腎性浮腫。
  3. (肝臓病)肝硬変に伴うもので“肝性浮腫”、腹水を伴うことが多いです。
  4. (内分泌性浮腫)代表的なものに甲状腺機能低下症に伴う下腿浮腫があります。
  5. (栄養障害性浮腫)食事が取れなくなり、血液中の蛋白質が低下した状態の時に起こります。
  6. (薬剤性浮腫)非ステロイド消炎物質(NSAIDs)、副腎皮質ステロイド、エストロゲン、経口避妊薬
  7. (妊娠に伴う浮腫)
  8. (特発性浮腫)上記のいずれでもない原因不明の浮腫。良性です。中年女性に多く、生理周期に伴うといわれています。

<局所性浮腫>

  1. (静脈性):上大静脈症候群、深部静脈血栓症など
  2. (リンパ管性):リンパ浮腫:リンパ管閉塞(癌性、術後など)
  3. (炎症性):火傷、日焼けなど
  4. (外傷性):打撲、捻挫、骨折など
  5. (血管神経性浮腫)

その他、パーキンソン病では手足の筋肉の動きが少ないことと、
自律神経の障害により重力によって下半身に血液がたまりやすいことにより
下腿浮腫をきたすことがあります。

Q 浮腫の治療にはどんなものがあるの?

原因疾患の治療が大前提となりますが、ほかにナトリウムの制限、水の制限、
利尿剤の投与という選択肢もあります。
ですがこういった選択は医療的な知識が必須ですので
想像や思い込みで判断するのではなく、まずは医師に相談しましょう。

その他、誰もが経験するような一時的な浮腫(むくみ)の解消法としては
マッサージでほぐす、お風呂などでよく暖める、一定の姿勢をとらないで
こまめに体を動かすというのが浮腫を取るための効果的な解消法です。

顔のむくみには冷水・温水で交互に顔を洗うなど血行を改善する、
運動をして筋肉、基礎代謝を上げる、食事改善でビタミン、
ミネラルをきちんと取るなどの方法があります。

女性の場合、生理前にむくむ方にはビタミンB6が有効という報告がありますので
生理前にはビタミンB6を多く含む食材をなるべく使用するのも
防止策として良いかもしれません。
※ビタミンB6を多く含む食材一例
 牛レバー(肝臓)、鶏ひき肉、鶏むね肉(皮なし)、いわし(丸干)、
まぐろ(赤身/脂身)、さば、にんにく、きな粉等など。

Q 浮腫(むくみ)に効く食べ物ってあるの?

利尿作用のあるウリ科の食べ物(すいか、きゅうり、冬瓜など)、
カリウムを多く含む食べ物 (バナナ、りんご、昆布など)、
ビタミンB1を多く含む食べ物( 豚肉、豆腐、小豆、かぼちゃなど)、
特にあずきは、利尿作用のあるサポニンが多く含まれているので
昔からむくみに効果的と言われています。

【高齢者と浮腫との関係性】
高齢になると、寝たきりになったり、運動量が減ったり、脂肪分や、筋肉量が減少し、
細胞の外側の水分の方が多くなるため、体内のバランスを崩すため
足の浮腫が酷い時などは脱水などの不快な症状を引き起こします。
さらに、酷くなると、まぶたや全身の浮腫にまで広がることもあります。

とは言え、高齢者の方がご自分で足の浮腫をケアするという事はなかなか困難で、
介護者などのご家族が率先してマッサージなどを行う必要があります。

Q どんな方法が効果的なの?

足を高くして寝る、弾性ストッキングなどを利用するのも効果的です。

また、人の血液の大半は下半身にあり、下半身の血液の流れが良くなれば、
全身に酸素と栄養が与えられるので、老化対策にも繋がります。
1日数分で構いませんから、簡単にふくらはぎを中心に
マッサージをしてあげましょう。
短い時間でいいから、それを毎日、日課として続けることが大切です。

足の浮腫は高齢者の中でも、特に認知症をお持ちの患者さんの方が
酷くなり易い傾向があります。
それは浮腫から来る不快感を周囲に伝えられないことが原因で
酷い時は痺れを伴うまで悪化していることもあります。
そういった状態を未然に防ぐためにもご家族や介護者の観察力が大切になります。

足のむくみぐらいと言わず、簡単にできることから少しずつ始めてみましょう。
1日に数回時間を決めて足の下にクッションを置いて
少し足を高く持ち上げてみたり、寝る前に足浴をしてみたり。
些細なことからでもいいので出来ることから是非チャレンジしてみて下さい。
特に高齢者の場合はご自身で出来ないことも多くなってきているので
ご家族や介護者の方が積極的に手伝ってあげて下さい。
何処か不快な部分がないか、声をかけてあげる事も大切です。

マッサージや運動でなかなか改善しないむくみに気付いたら
先ほど示したような病気が隠れていることがあるので、
後回しにせずに、すぐに医師に相談しましょう。

研修医 釋尾
2011.10.31