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 第6回 ”熱中症”について

今後、暑くなるにつれて増えつつある熱中症について紹介したいと思います。

Q 熱中症とは?

熱中症とは、体内の水分や電解質のバランスが崩れたり、調節機能が破綻したりするなどして発症する障害の総称を指します。
熱中症は重症度により以下の3つに分類されます。

  1. Ⅰ度(軽症)
    熱失神、熱痙攣→高温下での多量発汗に伴う塩類喪失により痙攣をきたす。
  2. Ⅱ度(中等症)
    熱疲労→放熱のために皮膚循環が増し大量の発汗を生じ、二次的に他の体内血流分布が変わり、主要器官への循環減少が生じた病態.熱射病の前段階。
  3. Ⅲ度(重症)
    熱射病→高温多湿環境下で、体温調節機能が障害され、異常な体温上昇がみられる.
    熱中症と聞くと屋外で発症するというイメージが強いと思いますが、屋内での発症も十分あり得ます。高齢者の熱中症の症例のほとんどが屋内発症です。

Q 熱中症はなぜ起こるのでしょうか?

通常、ヒトは体温を恒常に保つために体温の調節機能がはたらきます。体温が上がると発汗し熱を放出し、体温が下がると血管が収縮し、皮膚表面の熱を低く保つことで体内の熱を外に逃がさないようにします。
高温・多湿・無風・輻射源の環境下では、体から外気への熱放散が減少し、熱中症が発生しやすくなります。
特に高齢者では、寒暖の感覚が鈍くなり、衣服の着脱や冷暖房の利用といった行動性の体温調節が遅れがちになります。また、高齢者は自律性の体温調節機能も鈍くなり、体に熱がこもりやすくなりがちです。体内の水分量も若年者と比較すると少ないため、脱水になりやすい傾向にあります。脱水が進行すると、発汗量や皮膚血流量も減少し、さらに深部体温の上昇が大きくなります。

Q 熱中症の症状は?

重症度により変わります。めまい・失神・筋肉の硬直・けいれん・大量の発汗・嘔気・頭痛・倦怠感・意識障害・高体温など、様々な症状が認められます。

Q 熱中症が疑わしい場合の対処法は?

こちらも、重症度により変わります。軽症であればまずは、涼しい環境へ移し、脱衣と冷却を行い、安静臥床させましょう。水分、塩分の補給も必要です。経口摂取が困難であれば、輸液を行います。
意識障害を伴ったり、中等症~重症の場合はすぐに救急要請を行いましょう。この場合もすぐに涼しい環境へ移し、脱衣と冷却を心がけます。病院では、全身の冷却、脱水や電解質バランスの補正などが直ちに開始されます。

Q 熱中症の予防は?

基本的なことですが、屋外ではなるべく暑い場所を避け、屋内では扇風機やエアコンを用いるなどして、涼しい生活環境を心がけましょう。
また、夏場は知らず知らずに発汗量も多くなりがちです。十分な水分と塩分の補給が大切です。
熱中症は致死的な救急疾患でもあります。適切な予防策を講ずることができれば回避することが可能です。これから暑くなる季節に備えて、予防を心がけることが非常に大切と思われます。

研修医 北島真理子

 第5回 浮腫とは

誰もが経験したことのあるむくみ、浮腫について紹介したいと思います。

Q 浮腫(ふしゅ)とは??

『いわゆる「むくみ」のことを医療用語で浮腫といいます。

細胞組織の液体(細胞間質液)と血液の圧力バランスが崩れ、
細胞組織に水分が溜まって腫れてしまう状態のことを浮腫=むくみと言います。

皮下組織(皮膚の下部)に水がたまった状態で足や、すねなどを
指で圧迫する(押さえる)とその痕(あと)がなかなかもどらないような状態の時は、
身体に正常な時の体重の5~10%以上の水分の貯留があると言われています。
すなわち、普段の体重が60kgの人がむくみを認めた場合、
体重は63~66kg以上に増えているということになります。

浮腫が下腿に認めやすいのは、水分が重力の関係で身体の下の方へ
たまりやすくなるからです。
会社員の方がずっと椅子に座ってお仕事をしていると
夕方頃には足がむくんで来ますよね?
そのように寝たきりの人はずっと同じ姿勢でいるのですから
浮腫は背中や顔に出やすくなる、という事になるのです。

Q なぜ余計な水分が溜まるのか?

人間の身体には、全身を巡るように動脈、静脈の二つの血管と
リンパ管が張り巡らされています。
そして、心臓がポンプとなって送り出された血液は、動脈を通り
身体の隅々まで行き渡り、血液の血しょう成分が、細胞間の細胞間液になって
細胞に酸素や栄養を届けます。
酸素や栄養を届けた細胞間液は、次に細胞で使われた後の二酸化炭素や老廃物を回収し、再び血液の血しょう成分となり、静脈やリンパ管を通って心臓に戻ります。

この時、静脈の働きが悪いとリンパに送られる細胞間液(血しょう成分)の量が増えます。

浮腫の仕組みは、静脈がつまったり、リンパ液がスムーズに流れないことで、
細胞間液が血管に戻らず細胞と細胞の間に細胞間液、
いわゆる余分な水分(血しょう成分)が溜まってしまうことにより
それが“浮腫”という形になって現れるのです。

Q 浮腫の原因は??

浮腫は浮腫の起こっている場所によって全身性浮腫と局所性浮腫に分けられます。
<全身性浮腫の原因>

  1. (心臓病)心不全に伴う心臓性浮腫。
  2. (腎臓病)腎炎・腎不全に伴う腎性浮腫。
  3. (肝臓病)肝硬変に伴うもので“肝性浮腫”、腹水を伴うことが多いです。
  4. (内分泌性浮腫)代表的なものに甲状腺機能低下症に伴う下腿浮腫があります。
  5. (栄養障害性浮腫)食事が取れなくなり、血液中の蛋白質が低下した状態の時に起こります。
  6. (薬剤性浮腫)非ステロイド消炎物質(NSAIDs)、副腎皮質ステロイド、エストロゲン、経口避妊薬
  7. (妊娠に伴う浮腫)
  8. (特発性浮腫)上記のいずれでもない原因不明の浮腫。良性です。中年女性に多く、生理周期に伴うといわれています。

<局所性浮腫>

  1. (静脈性):上大静脈症候群、深部静脈血栓症など
  2. (リンパ管性):リンパ浮腫:リンパ管閉塞(癌性、術後など)
  3. (炎症性):火傷、日焼けなど
  4. (外傷性):打撲、捻挫、骨折など
  5. (血管神経性浮腫)

その他、パーキンソン病では手足の筋肉の動きが少ないことと、
自律神経の障害により重力によって下半身に血液がたまりやすいことにより
下腿浮腫をきたすことがあります。

Q 浮腫の治療にはどんなものがあるの?

原因疾患の治療が大前提となりますが、ほかにナトリウムの制限、水の制限、
利尿剤の投与という選択肢もあります。
ですがこういった選択は医療的な知識が必須ですので
想像や思い込みで判断するのではなく、まずは医師に相談しましょう。

その他、誰もが経験するような一時的な浮腫(むくみ)の解消法としては
マッサージでほぐす、お風呂などでよく暖める、一定の姿勢をとらないで
こまめに体を動かすというのが浮腫を取るための効果的な解消法です。

顔のむくみには冷水・温水で交互に顔を洗うなど血行を改善する、
運動をして筋肉、基礎代謝を上げる、食事改善でビタミン、
ミネラルをきちんと取るなどの方法があります。

女性の場合、生理前にむくむ方にはビタミンB6が有効という報告がありますので
生理前にはビタミンB6を多く含む食材をなるべく使用するのも
防止策として良いかもしれません。
※ビタミンB6を多く含む食材一例
 牛レバー(肝臓)、鶏ひき肉、鶏むね肉(皮なし)、いわし(丸干)、
まぐろ(赤身/脂身)、さば、にんにく、きな粉等など。

Q 浮腫(むくみ)に効く食べ物ってあるの?

利尿作用のあるウリ科の食べ物(すいか、きゅうり、冬瓜など)、
カリウムを多く含む食べ物 (バナナ、りんご、昆布など)、
ビタミンB1を多く含む食べ物( 豚肉、豆腐、小豆、かぼちゃなど)、
特にあずきは、利尿作用のあるサポニンが多く含まれているので
昔からむくみに効果的と言われています。

【高齢者と浮腫との関係性】
高齢になると、寝たきりになったり、運動量が減ったり、脂肪分や、筋肉量が減少し、
細胞の外側の水分の方が多くなるため、体内のバランスを崩すため
足の浮腫が酷い時などは脱水などの不快な症状を引き起こします。
さらに、酷くなると、まぶたや全身の浮腫にまで広がることもあります。

とは言え、高齢者の方がご自分で足の浮腫をケアするという事はなかなか困難で、
介護者などのご家族が率先してマッサージなどを行う必要があります。

Q どんな方法が効果的なの?

足を高くして寝る、弾性ストッキングなどを利用するのも効果的です。

また、人の血液の大半は下半身にあり、下半身の血液の流れが良くなれば、
全身に酸素と栄養が与えられるので、老化対策にも繋がります。
1日数分で構いませんから、簡単にふくらはぎを中心に
マッサージをしてあげましょう。
短い時間でいいから、それを毎日、日課として続けることが大切です。

足の浮腫は高齢者の中でも、特に認知症をお持ちの患者さんの方が
酷くなり易い傾向があります。
それは浮腫から来る不快感を周囲に伝えられないことが原因で
酷い時は痺れを伴うまで悪化していることもあります。
そういった状態を未然に防ぐためにもご家族や介護者の観察力が大切になります。

足のむくみぐらいと言わず、簡単にできることから少しずつ始めてみましょう。
1日に数回時間を決めて足の下にクッションを置いて
少し足を高く持ち上げてみたり、寝る前に足浴をしてみたり。
些細なことからでもいいので出来ることから是非チャレンジしてみて下さい。
特に高齢者の場合はご自身で出来ないことも多くなってきているので
ご家族や介護者の方が積極的に手伝ってあげて下さい。
何処か不快な部分がないか、声をかけてあげる事も大切です。

マッサージや運動でなかなか改善しないむくみに気付いたら
先ほど示したような病気が隠れていることがあるので、
後回しにせずに、すぐに医師に相談しましょう。

研修医 釋尾
2011.10.31

 第4回 記憶障害について

皆さんは『記憶障害』という言葉を聞いたことあるでしょうか。
よくドラマや映画で記憶喪失の人が出てきますが、それも記憶障害の一部の症状です。

ご高齢になると共に記憶障害の発症のリスクは高くなっていきます。

在宅医療においても、記憶障害を伴う認知症の患者さんが数多く見受けられます。

では、記憶障害とは一体どういうものなのか、
また、記憶障害が発症する原因としては何があるのか、
記憶障害の症状の特徴によってどういった病気を考えていけばいいか、
治療はどういったものがあるか、を
高齢者に見られやすい記憶障害(主に認知症)を中心に考えていきたいと思います。

Q そもそも『記憶』ってなに?

『記憶』とは、「記銘」、「保持」、「追想」の3つの機能により成り立っています。
「記銘」によって、言葉や物事、動作を覚え込み、
「保持」によって、それを維持し、
「追想」によって、それを思い出す。

記憶障害には大きく分けると「記銘障害」と「追想障害(※)」があります。
「記銘障害」とは、新しく言葉や物事を覚えられないことをいいます。
健常者でも、睡眠不足や疲れで集中力が低下し記銘力の低下が起こることがあります。
「追想障害」とは、ある程度まとまった期間のことが思い出せない、
いわゆる「ど忘れ」という状態です。
病的に思い出せないことを「健忘(けんぼう)」と言います。
(※)追想障害には記憶増進、記憶減退、記憶錯誤等がありますが、
分かりやすくするため説明を省きます。

Q 高齢者の記憶障害の原因は?

記憶障害の原因として、高齢者に多いのはもちろん認知症です。
認知症には様々なタイプがあり、有名なアルツハイマー型認知症、
他には脳血管性認知症や、レビー小体型認知症というものもあります。

頻度はアルツハイマー型認知症が全体の認知症の45.1%、
脳血管性認知症が29.5%、レビー小体型認知症は4.4%となっており、
上記の混合型の認知症は12.0%となっています。

ほかにも、うつ病、頭蓋内疾患として慢性硬膜下血腫や正常圧水頭症、
甲状腺機能低下、アルコール依存、神経梅毒やビタミン欠乏症などが
原因となることもあります。
また、勉強部屋のコーナーの『不穏とは』で出てきた、
せん妄も一過性の意識障害だけでなく、慢性的な記憶障害を引き起こす原因となります。

せん妄になると6~12ヶ月後の認知・身体機能が低下することが知られており、
一般的に「入院するとボケる」と言われる原因の一つにもなっているのです。

Q どうやって見分けるの?

上記で述べたような疾患が原因となりますが、症状の進行速度、症状の出現する順番、病識の有無、質問に対する反応などからおおよその判断をすることができます。

  1. 慢性的(月~年単位)に症状が進行していくタイプ
    •  アルツハイマー型認知症:症状の進行が穏やかであり、初期と末期の症状の経過は
      進行速度がより遅くなります。まず、記銘障害のみが5年程度継続します。
      その後、時間→場所→人物の順にわからなくなっていき、さらに着衣や入浴、
      トイレの介助が必要となり、言語機能が障害されてきます。
      この時期から徘徊や攻撃行動、物取られ妄想も出現してきます。
      末期には昔のことも忘れてしまう追想障害もみられ、歩行や栄養の障害も出現し、
      発症より9年程度で死亡するとされます。
      病識は乏しく、質問に対して笑ってごまかすのが特徴的です。
    •  

    • 脳血管性認知症:脳卒中発作や新しい梗塞が加わるたびに症状が悪化していくため、
      アルツハイマー型に比べ、比較的急速に発症し段階的に悪化していくのが特徴的です。
      初期症状としては、アルツハイマー型と異なり、抑うつや自発性低下、夜間興奮、
      歩行障害、尿失禁、運動麻痺が先に現れる場合があります。
      また、障害の進行する部分にばらつきが現れ
      (例:喋れないが計算だけは問題ないなど)、症状も動揺することがあります。
      病気に対しての認識もあり、記憶障害もアルツハイマー型より軽度です。
  2. 急性(日~週)、亜急性(週~月)に症状が進行していくタイプ
    1. 原因の積極的検査で異常はないが、随伴症状を認めます。
      • レビー小体型認知症:進行が急速であり、症状の動揺も激しいです。
        初期に幻視が出現し、錐体外路症状(無動、動作緩慢、歩行障害など)や
        不随意運動、徘徊、攻撃行動が記憶障害に先行して見られることもあります。
        記憶障害はアルツハイマー型より軽度です。
      • うつ病:亜急性(週~月)に症状が進行していきます。
        記憶障害の自覚症状は訴えますが、知能検査では消極的になり、
        返答に時間がかかるものの促せば正確な回答が得られる点が認知症と異なります。
        うつ病では、不眠・食欲低下が著明で気分もほぼ毎日ずっと落ち込んでいて
        笑う余裕もみられません。希死念慮(※)も認める場合もあります。
         (※)希死念慮・・死にたいと願うこと。
    2. 原因の積極的検査で異常を認める
      頭蓋内疾患、甲状腺機能低下症、アルコール依存症、神経梅毒、
      ビタミン欠乏症などは、最終的にCTやMRI、血液検査などの
      詳しい検査で原因をつき止めます。

Q 治療方法はありますか?

残念ながら認知症の治療薬は選択肢が少なく、アルツハイマー型認知症に適応のある
アリセプト®という薬が病型問わず出されていることが多いです。

アリセプト®はコリンエステラーゼ阻害薬であくまで進行を遅らせることが
目的であり、中断すると効果がなくなってしまいます。

他にも、アリセプト®と同様の作用の薬で体に貼るタイプのイクセロンパッチ®や
NMDA受容体阻害薬であるメマリー®という中等度から重度の
アルツハイマー型認知症に使われる新薬も出ており、
今後使われる症例が増えていくことで医学的効果の程度がわかってくると思われます。

また、認知症に伴って二次的に出現してくる徘徊や攻撃行動などの症状を
周辺症状といいますが、その周辺症状を改善するために、
抗不安薬や抗精神病薬が対処療法として用いられることがあります。
使いやすい薬としては、抗精神病薬のグラマリール®や漢方の抑肝散などがあります。

しかし、周辺症状のコントロールが難しい場合には脳神経内科や精神科で
薬の調整をしてもらった方がいいでしょう。

記憶障害が伴った患者さんと向き合うことは
ご家族にとっても、とても辛い時間が多くなることも確かです。
「どうしてこうなってしまったんだろう」
「何か解決方法はないだろうか」
介護に追われる毎日から介護者の方々の方が滅入ってしまうというケースも
少なくないかと思います。

そういう時は少し肩の力を抜いてみて下さい。
何事も向き合い続け過ぎると見えてこないこともあります。
誰かと他愛無い話しをすることで救われる気持ちもあります。
発症してしまった病気とは仲良く付き合っていくことが大事です。
記憶障害も同じです。

辛い時や不安な時は我慢せず、医師や看護師に相談してみて下さいね。

研修医 加賀
2011.10.31

 第3回 誤嚥性肺炎と予防(口腔ケア)について

介護をしていく上で大きな問題となる誤嚥性肺炎とその予防、
特に口腔ケアを中心にご紹介していきたいと思います。

Q 誤嚥性肺炎とは?

咽頭反射という反射を皆さんはご存じでしょうか?
のどの奥に指を突っ込むと「オエっ」となりますよね。
あの状態を医学用語で咽頭反射といいます。

ここをご覧になっている皆様にとって「オエっ」となるのは
ごく当たり前のことかと思われます。
しかし、加齢によってこの反射は弱くなって行き、介護が必要な高齢者の方では
咽頭反射がかなり弱い、または完全になくなってしまっているということも
珍しいことではありません。
さらに高齢者の方は物を飲み込む力(嚥下能力)自体も低下しています。
また、健常な人であれば気管に物が入ったときむせ込むことがありますが
(むせ込むことを「咳嗽反射」といいます)、
高齢者の方では、このむせ込みすら見られないこともあります。

Q この状態ではどういうことが起きるでしょうか?

本来気管に異物が入らないようにするための咽頭反射
異物が入っても外に出す咳嗽反射の二つの反射がなく、
水・食物を食道に運び込むための嚥下能力が低下していると、
異物・水・食物や唾液が容易に気管に入ってしまいます。

嘔吐があれば胃液も気管に入ります。
これらによって気管・気管支・肺に炎症が起こることを“誤嚥性肺炎”といいます。

体力・免疫能力の低下した高齢者ではこれはかなり致命的な事態であり、
治療に難渋することも多く、誤嚥性肺炎が原因で亡くなる方も大勢いらっしゃいます。

なかなかに恐ろしい誤嚥性肺炎・・。
これを予防するにはどうすればいいでしょうか?

実はご家庭でできる対策があるのです!

それは・・口腔ケアです!

Q 口腔ケアとは?

口腔ケアというと難しく聞こえてしまいますが、
皆さんはすでに毎日口腔ケアを実践されていますよね?

そう、歯磨きです!

介護が必要な高齢者の場合、身の回りのことが自分でできない場合が多いと思います。
そして、介護するご家族の方も食事・排泄・入浴や痰の吸引、
胃瘻などのケアのような生活・生命に直結するようなことは毎日されていると思いますが、意外に忘れがちなのが“口腔ケア”だったりするのです。

試しに患者さんのお口の臭いを嗅いでみましょう。
臭っていませんか?
歯垢がところどころについていたりしませんか?
舌が汚くなってはいないでしょうか?
これらは口腔内で細菌が繁殖していることの大切なサインです。

口腔内には多種多様の細菌が存在しています。
先に述べましたように飲み込む機能や咳をする力が弱くなると、
口腔内の細菌や逆流した胃液が誤って気管に入りやすくなります。
胃液の逆流についてはご家庭でコントロールすることは難しいと思いますが、
口腔内の細菌が気管に入るのは予防できます。

口の中を綺麗にすればいいのです!

そのための一番簡単で身近な方法が歯磨きという事になります。
歯磨きをするだけで“誤嚥性肺炎のリスクがかなり低く”なるのです。

Q 歯磨きの方法は?

特別な方法や用具は必要ありません。
普通の歯ブラシを用意して頂いて、丁寧に磨いていただければ結構です。
ただ、口腔粘膜を傷つけないように柔らか目のブラシの方が良いかもしれません。

一番気を付けなければいけないのが“口腔ケアを行う時の体位”です。
なるべく頭を高い位置にして行いましょう。
ベッドを90度近くまで上げられると理想的な体位になります。
座位が可能な方の場合は椅子に座って行うのも良いと思います。

ベッドを90度まで上げるのが無理なら可能な範囲で上体を起こして行いましょう。
それも難しければ側臥位(横向き)で行います。
さらに難しければ仰臥位(あおむけ)で顔だけ横に向けます。
仰臥位で顔も正面だと誤嚥しやすいので歯磨きは避けましょう。

その他、患者さんの状態や、義歯(入れ歯)の有無、食事が経口摂取出来ているかいないか、
嚥下機能のリハビリ、口腔の状態に応じた道具・方法の選択なども重要なのですが、
まずは介護者の皆さんが出来る範囲で良いので口腔ケアにチャレンジしてみましょう!
分からないことがあれば医師、看護師に相談してください。

歯磨き一つで誤嚥性肺炎の予防ができます!
一人で行うことに不安を感じる時は看護師と一緒に実践するのもいいかもしれません。
簡単なことから始める病気予防の歯磨き。
是非、今日からでもいいので第一歩を踏み出してみて下さいね!

研修医 山口 晃
2011.09.30

 第2回 不穏とは

介護の最中、患者さんが突然暴れ出したり、大きな声をあげ出したりして驚いた、
といった経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

今回は、そんな突然の興奮状態「不穏」をテーマにしたいと思います。

「もともと穏やかだった患者さんが、夜になってもなかなか眠らず、
急に暴れだして大声をあげ始めた」
「家では平気だったのに、病院に入院したら急にわけのわからないことを言い出した」

こういった状態のことを、医療の現場では「不穏(ふおん)」と呼びます。
元々は、ごく穏やかに生活しておられた方が、何かの拍子に大暴れを始めたり、
大混乱に陥ったりしてしまうことを指します。

ご高齢の方や、持病をお持ちの方などはちょっとした環境の変化がきっかけとなって、
不穏になってしまうことがよくあります。
そして時には、その後ろに違った病気が隠れている可能性も否定出来ないため、
注意が必要な時もあるのです。

Q 不穏状態になってしまったとき、どんな病気が考えられるのでしょうか?

認知症や、うつ病や統合失調症などの精神疾患、脳炎などの感染症、
甲状腺機能亢進症などの内分泌疾患、などなど、様々な病気で不穏状態が起こりえます。
そのほかにも、お薬(特にステロイド、化学療法、インターフェロンなど)の副作用や、アルコールや薬物の中毒の可能性もあります。
患者さんが不穏状態になってしまったら、まずは医師に相談して、
こういった病気などがないか、調べてもらうことが必要です。

そして、不穏の原因としては、こういった病気が原因なだけでなく、
「せん妄(もう)」という状態が考えられます。

Q 「せん妄」って??

せん妄とは、急激に生じる、一時的な意識障害の一種です。
ご高齢の方、持病のある方などに、環境の変化やストレスなどが加わった時、
特に起き易いといわれています。

「患者さんが入院したら、その夜急に病室で暴れだし、
わけのわからないことを言っていたが、翌朝になったら本人はすっかり忘れていた」などということが、病院では非常によく起こります。

また、在宅医療の現場でも、「患者さんがショートステイから帰ってきたら、急によくわからないことを言って
騒ぎ出したが、数日したら元に戻った」
「寝たきりの患者さんが、体調が悪くなったのをきっかけに暴れだしたが、
体調が元に戻るにつれて落ち着いてきた」
などという経験をされた方も多いのではないでしょうか。

このように、急激かつ一時的に、軽い意識障害が出現して
自分がどこにいるかわからなくなったり、注意や集中ができなくなったり、
興奮・錯乱などの様々な症状が生じることを、「せん妄」と呼びます。

症状は1日の中でも一定でなく、とくに夕方から夜間にかけて
出現することが多くあります。
また、興奮だけでなく、活動性が急激に低下するタイプのせん妄もみられます。

ここまでで大切なポイントは、
せん妄はあくまで一時的な状態であり“良くなる”ということです。

Q せん妄を治すにはどうすればいいの?

第一に重要なことは“せん妄になっている原因を取り除く”ということです。
環境の変化が原因となっている場合には、その環境に慣れてくれば
自然に良くなることもあります。
体調の悪化が原因の場合には、体の状態が戻れば、意識の状態も
元に戻ることが多いです。
そのほかにも、周りの方々がよく話しかけることや、昼は部屋を明るく、
夜は暗く静かにするなどして昼夜の区別をつけ、睡眠時間を確保することも重要です。

それでもうまく行かない場合や、興奮が非常に強い場合には、
興奮を抑えるお薬を使う事ができますので、医師に相談してみて下さい。
「眠れないようだから」「落ち着かないようだから」などと、
市販されている睡眠薬や精神安定剤などを安易に使うと、
興奮がよりひどくなってしまうこともあるので、注意が必要です。

また、せん妄自体は良くなっても、それがきっかけで、認知症などの
元々の病気が悪化してしまうこともあるため、
せん妄が良くなった後の状態にも注意が必要です。

ご家族の方が、もし不穏状態になってしまった時には、
まず、ご本人や周りの方がけがをしないように十分気を付けてください。

そして「もう少しすれば落ち着くだろう」と様子を見たり
「周りに迷惑をかけたくない」と一人で悩んだりせずに
早めに医師に相談し、適切な治療を進めていくことが
なにより大切であるということを忘れないで下さい。

研修医 油木 真衣
2011.08.30

 第1回 高齢者の方の失神について

高齢者の方が約30%の割合で、転倒を起こすといったデータが発表されています。
全転倒のうち、30%は失神を原因とするものといわれていますが
何故、高齢の方は失神をするのか、ということを考察して行こうと思います。

高齢者の方は自然な老化に加え、高血圧や糖尿病、心疾患など
複数の疾患を持つことが多く、そのことにより身体全体の機能低下も引き起こします。

ヒトのからだは、本来あらゆる状態・環境の変化に応じて
一定の状態を保つ性質があります。
しかし、高齢になるとそれらの機能は低下し、変化に対応し辛くなっていきます。
そのため、からだの血流減少や血圧低下を招きやすく、脳への血流が途絶えて
失神を引き起こし易くなるのです。

筋肉量低下が失神を招く

筋肉量は加齢とともに低下します。
特に、日常生活で使う機会が多い手や腕よりも、
歩行などの運動習慣が減ることによって足や股の筋肉量の低下が顕著です。

その結果、足からの静脈血が心臓に戻るための、筋肉が静脈を圧迫する力が弱まり、
足に血液が停滞しがちになります。
そのため、全身への血流が悪くなり、脳へも十分に血液が行かなくなるため
失神を起こしやすくなります。

筋肉のポンプ作用低下を防ぎ失神予防

厚生労働省の調査によると、1週間安静臥床で筋力は20%、
2週目になると40%低下するという結果が出ています。
つまり、何もしないでいると、筋肉と筋力は落ち続けて行くという事が分かります。

その点からも日常に置いて、足から心臓へと血液をくみ上げる
筋肉のポンプ作用を機能させるために、下肢の筋肉を強くすることが
大切であると考えられます。

歩行が困難でも、座位を取ることが出来るのであれば
椅子に座る時間を作るなど、下肢を鍛えることは、失神に限らず
転倒や骨折などが減り、生活の質の向上へと繋がって行くと言っても
過言ではないでしょう。

高齢者はなぜ食後に失神するのか

高齢者の方は食後低血圧になり、失神を起こすことがあります。
高血圧や糖尿病など、自律神経の調節がうまくいかない場合などに多くみられ、
その割合は高齢者の1/3とも言われています。
理由としては、食事をすると迷走神経の働きで血液は消化のために胃腸に集まり、
血管は拡張し、心拍数が減少するからです。

通常その状態を改善するために、交感神経が働くのですが
高齢であればあるほど自律神経のコントロールがうまくできないため、
低血圧状態が続いてしまい、その結果食後に失神する事態に繋がります。

高齢者はなぜ食後に失神するのか

食後すぐに立ち上がらず、ゆっくりと休む他に
食事の前後に緑茶やコーヒーなどの、カフェインを摂取することで
交感神経が刺激されて血圧上昇作用があるため
失神予防に有効とされています。
また、自律神経を改善するために、適度な運動や早寝早起きなど、
生活習慣を見直すことも必要です。

年齢を重ねるということは、“出来ないこと”が増える事でもありますが、
今まで当たり前のように出来ていたことが、出来なくなってきてしまうのは
仕方のない事と、前向きに捉えて、今の自分自身に出来ることを見つけて
生活習慣の改善を目標に、出来る範囲での運動の取り入れをすることも
予防という観点ではプラスかと思われます。

研修医小林香映

 研修医レポート

研修医の北島と申します。

1ヶ月間、荏原ホームケアクリニックにて地域医療の研修をさせていただいています。普段は大学病院にて臨床研修をしているので、訪問診療に実際参加させていただき、非常に有意義な毎日を過ごしています。

今回は、研修医の1日についてご紹介させていただきます!

朝は8時半頃にクリニックに出勤します。8時40分から、患者さんの申し送り等のカンファを開始し、スタートします。

カンファ終了後に当日診察に伺う患者さんの情報を再確認し、先生とスタッフさんと一緒に同行します!

移動は車です。車中では、先生が患者さんの病態等に関してクルズスしてくださったり、様々なお話をしてくださり非常に勉強になります!

患者さん宅に着いたら、診療を開始し、場合によってはカニュレ交換、PEG交換、バルーン交換等の処置、採血、血ガス、点滴加療等も行います。

午前中は3~4件まわり、お昼に一旦クリニックに戻り、ランチタイムです。

戸越公園はお弁当屋さんもファストフード店もあり、意外と充実しています。

ランチタイムは先生方やスタッフさん方と机を囲み、楽しい時間はあっという間に過ぎてしまいます。

忙しくてお昼にクリニックに戻れない際はラーメン屋さんで食べたり、川口先生とスタッフの橋枝さんのこのようなパフォーマンスもみれます!笑

 

午後は4~6件まわり、再びクリニックへ戻り、当日診察した患者さんの情報をまとめ、わからなかったことを調べ勉強し、終了です。

 

ザッとまとめると1日の流れはこのような感じです!

 

移動時間もあるため、患者さん一人一人の診療時間は限られています。1〜2週に一度しか診察に伺えないため、短い時間でいかに多くの情報を得ることができるか、先生方の問診や診察が非常に勉強になりました。

 

将来、地域医療に携わりたい研修医の皆さん、ヤル気のある研修医の皆さん、ぜひ荏原ホームケアクリニックでの研修をお勧めします(^^)‼

 

クリニックでの1ヶ月間はあっという間でした。非常に有意義な研修でした。

藤元先生、川口先生、スタッフの皆様方に大変お世話になり、心から感謝しています。ありがとうございました。

 サプライズ

先日訪問診療でお伺いしている患者さん宅に

とっても可愛い小物入れがありました。

お伺いすると、なんと患者さんご自身の手作りとのこと。

さらに詳しくお話しを伺うと、

糊も、セロハンテープも、ホッチキスも使わずに

折った紙を折り合わせただけ とのこと。

不器用な私はただただ感激してしまい

そんな私を見て患者さん「こんなの欲しいの~?」なんて笑っておられました。

いえいえ、”こんなの” なんて代物じゃないんですよ。

作りが本当にしっかりしているのです。

伝統工芸的な何処か懐かしいとさえ思える雰囲気。

プラスチックが当たり前になった現代ですが

幾つになっても折り紙とか見ると

何となくわくわくした気分になりませんか?(私だけ?)

「すごい。すごいです!私には一生作れません!」

なんて終始感激してしまうぐらいでした。

そして、その翌週に診療にお伺いすると・・

患者さんからサプライズ!

なんと、ペン立てをプレゼントして下さったのです(泣)

そしてその完成度の高さにさらに感激。

さっそく使わせて頂きまして、デスクの上がなんとも華やかに!

とってもとっても素敵な贈り物を頂いてしまい

このペン立てを見る度に気持ちがほんわかしてしまいます。

なんとも幸せ者だなと思った今日この頃でした。

↑こちらも糊などを一切使用せずに煙草の中の銀紙で作成された鍋敷。

重量感があり100均などで売っている鍋敷きとは比べ物になりません。

 気付けば、もう5月は目前

1年はあっという間で、4月も下旬に差し掛かろうとしています。

私が勤務する城南ホームケアクリニックの側には碑文谷公園があります。

住宅街にある公園でそれほど大きな公園ではないのですが

ポニーやうさぎなどと触れあえる事も出来ます。

美しい桜並木もあり小さなお子さんを連れたご家族連れが

お散歩を楽しんでいる、そんなホッとする光景を横目に

今日も診療に出掛けるのですが、寒暖差も徐々に弱まり

春の陽気に包まれる今日この頃。

時には日中、汗を掻くほど暑い日もありますね。

今年も猛暑になるのか、関東圏では計画停電が予想されています。

節電に気をつけ過ぎて、脱水になるのも問題です。

設定温度は28度程度に合わせて無理をしないようにして下さい。

冷房にあたり過ぎると咽喉を痛めることもありますので

咽喉に痛みを感じた時はうがいをして、乾燥にも注意して下さいね。

 

患者さんに注意を促す立場である私ですが

この所、咳が多くてマスクを常に着用しています。

花粉?風邪?

いずれにしても体調が悪い時はゆっくり休んで、と言いながらも

なかなかゆっくり過ごす時間が取れない時もありますが

美味しいものを食べて、楽しい事を考えて日々を過ごすことが

何より大切ですね。

GWも始まります。

旅行の予定など立てられていますか?

旅行雑誌を眺めながら色々な想像をしつつ予定を立てる

そんな時間も楽しいかと思います。

 

ちなみに、

南極ではウイルスなど病原体がいないので風邪をひかないそうです。

何とも羨ましいですね。

 

 

 デイホーム奥沢での勉強会報告

城南ホームケアクリニックの院長 長谷川幸祐先生が勉強会を行いました。

テーマは【認知症を支える介護と医療】

デイサービスのご利用者様とそのご家族様が対象で、

全部で40名ほどの方が参加をされていました。

 

最初は長谷川先生による認知症の講義。

認知症の種類や症状、また、

その症状に対してどんなふうに対応すればいいか等のお話をされました。

新しい認知症のお薬に、飲み薬だけでなく貼り薬が出たことにも触れ、

実際にサンプルを用意して皆さんに触って頂く時間もありました。

介護をされているご家族様が日ごろ困っている様な内容も例に挙げてのお話だった為、

レジュメを元に参加されている皆様、

また、施設のスタッフさん達も熱心に先生の話に耳を傾けていました。

先生の講義の後は質問コーナー。

「今、うちのおじいちゃんはこういう症状なんだけど…」

など今回のテーマである認知症に関する質問から、

「膝が痛くて整形に通っているんだけど…」、

「このお薬とこのお薬を一緒に飲んじゃって大丈夫かしら。。。」など、

色々な質問が出ていました。

中には処方内容を持ってきて下さった方もいらっしゃり、

先生はそれを見ながら「これは血圧のお薬で…」と

日ごろの診療そのもののようにお答えしていました。

最後に、在宅診療についてご紹介。

「車に乗って先生と看護師さんや事務さんがご訪問させて頂くんです。」

「車の中には点滴等、必要な薬品や物品類が載っているんですよ。」

ということをお話させて頂きました。

参加されている方からは「こんなサービスがあるなんて知らなかったわ」という声や、

「今、通院が大変で来て頂いているんですよ。」という声を頂きました。

 

2時間の内容でしたがあっという間に時間が過ぎてしまいました。

終わってからも先生に質問に来る方がいらっしゃったりと大盛況でした。

 

病気を少しでも多く理解して頂き、日々の介護に役立てて頂く。

勉強会はそういう意味で実りある時間になるのではないかと思います。

難解な医療用語も分かり易く説明してくれる長谷川先生の勉強会。

機会がありましたら、是非参加してみて下さいね!