大自然の襲来

 私の母校の教養部は地方の森の中にあって、そこで1年間の寮生活を行うのが決まりだった。医歯薬三学部の学生がまとめて共同生活を送るので、意外に楽しい生活であったのだけれども、自然の中での暮らしは、東京都とはやや違う注意点があった。

それは、動植物の数と種類が豊富であり、人間の生活の中にかなり侵入してくるということ。夜に窓を開けると見たことのない虫が入ってくるし、腐った床板にキノコは生える。一度は、何気なく履いた寮のスリッパの中に蜂が入っていて、相当痛い思いをしたことがある。

 2年生になり東京へ戻り、そんな心配ももはや無縁と安心していたのもつかの間、下宿のドア横の配電盤に蜂が入っていくのを発見。その配電盤の下に郵便受けがあったので、追い払っておこうと開けてみたところ、

バリッ!

と音がして、見事な蜂の巣の断面図が・・・

 恐る恐る閉めて、お役所に連絡。派遣された駆除業者のいうことには、黄色スズメバチといって、最も獰猛な蜂の巣ができていたとのこと。気性が荒く、部屋の中に入り込んだら、出口がないことだけでも、激怒して刺しに来るとのこと。これは相当怖い思いをした。

そして先日。訪問診療先のドアの前に、たくさんの蜂が群がっているのを発見。開けてしまうと、蜂が家の中に入ってしまいそうなので、勝手口から入れてもらった。もう一度外に出てよく様子を伺ってみると、蜂たちはドアと天井の間にある小穴から出入りを繰り返していた。

 “居間に蜂がいっぱいいて困っていたんですよ・・・”

蜂たちは家の中にも侵入していたのだった。患者さんは、いつも診察する居間から追いやられ、ふすまを閉じ切った台所に避難をしていた。患者さんが刺されても大変なので、決死隊として蜂の居座る居間に突入、状況を確認した。

エアコンのダクトの隙間から蜂が出入りしているようであった。外の穴と交通しているのだろう。もしかすると天井裏には、いつかの蜂の巣をしのぐような巨大な巣があるのかもしれない。早速お役所に対処を依頼したのであった。

 都会に残された僅かな自然が、なんとか適応して生き残ろうと必死なのだろうが、なんだか違和感を禁じ得ない出来事だ。

 みなさん、蜂の活発になる季節です。都内在住ではあれども、どうぞご用心を!

蜂イメージ