ALS発声装置

こんにちは!あすかホームケアクリニックの黒木です。

本日は学術論文のご紹介です。New England Journal Of Medicineという医学系の権威ある雑誌で2024年8月15日に発表された論文です。

筋委縮性側索硬化症(ALS)などで使用される代替コミュニケーションツールについてです。ALSについてはまた別の機会で詳しく書かせて頂きます。

ALSやパーキンソン症候群などの神経難病では、病状が進行してくるに従って声を出したり発音したりすることが困難となる、息が続かず言葉をつなげられない、文字を書くことが困難など、自分の考えや思いを伝えることが難しくなることがあります。
特にALSでは病状が進行すると、表情や身振り手振りなどの言葉以外のコミュニケーションも徐々に難しくなります。

そこで登場するのが代替コミュニケーションツールといわれるものになります。
代表的なもので古くから使用されているものには「文字盤」があります。
この論文では、四肢不全麻痺と重度構音障害を有するALS患者1例(45歳)を対象に、ブレインコンピュータインターフェイス(BCI)であるスピーチ・ニューロプロテーゼの性能を検討したとのことです。

発症5年後に微小電極アレイ4つを左腹側中心前回に外科的に埋め込み、患者が発話しようとした際の大脳皮質の神経活動を皮質内電極256個から記録。解読された語彙は画面上に表示され、発症前の患者の声に似た音声へと変換させたと。

代替コミュニケーションツール イメージ

その結果、使用初日(埋め込み25日後)に、ニューロプロテーゼは50語の語彙を認識し、精度は99.6%に到達、ニューロプロテーゼのキャリブレーションには、患者が発話しようとする間の大脳皮質記録に30分必要で、その後、処理されたとのこと。

使用2日目に1.4時間の訓練をした後、12万5000語を精度90.2%で解読できた。さらに訓練データを用いて、8.4カ月間にわたり精度97.5%を維持できたと。患者は1分当たり約32語の速さで累積248時間以上、自分のペースで発話によるコミュニケーションを行うことができた。

脳に電極を入れて、その電気活動を読み取ることで患者さんの伝えたいことを言語化 イメージ

という内容になります。つまり簡単にいうと、脳に電極を入れて、その電気活動を読み取ることで患者さんの伝えたいことを言語化できるというものすごい措置になります。

これはまだ実験段階ではありますが、このような取り組みが広まってゆけばALSをはじめとした言葉を発せなくなってしまう疾患の患者さんにとっては大きな光になるのではないでしょうか。
まさしく新時代の在宅医療のスタイルが求められる時代になっているのかもしれません。

当院ではそんな取り組みの一環として、ALSの患者さんに自分の声を録音してもらい、デバイスを使って自分の声でコミュニケーションが取れるようなお手伝いをしています。動画の方は、録音した声をもとにスマートフォンにアプリを入れて、日常会話などを登録していました。もちろんフリー入力も可能です。「電話鳴ってたよ」などの何気ない日常会話を自分の声として発信し、うれしそうにやり取りをしているご家族を見ていると、何とも言えない暖かい気持ちになりました。

声が明瞭に出るうちに録音をすればより自然な音声での表出が可能になるようです。入力装置などとうまく組み合わせれば少なくとも家族などとのコミュニケーションには困らない時代がすぐそこまで来ているような気がしますね!

なお、現在使用できる装置などの入手や人的資源の確保には公的な支援制度があります。
物的な支援については障害者総合支援法における「重度障害者用意思伝達装置」「携帯用会話補助装置」「情報・通信支援用具」が対象となります。
また、医師の処方があれば医療保険または介護保険制度を活用して、コミュニケーション手段の構築を目的としたリハビリテーションを受けることもできます。
制度は全国一律ではないので、ソーシャルワーカーや患者会などにご相談ください。
N Engl J Med. 2024 August 15; 391(7): 609–618

●訪問診療対応エリア●
北区・板橋区・豊島区全域
足立区・文京区・荒川区・練馬区・新宿区・川口市、戸田市の一部地域
あすかホームケアクリニック
院長 黒木卓馬