第2回 不穏とは

介護の最中、患者さんが突然暴れ出したり、大きな声をあげ出したりして驚いた、
といった経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

今回は、そんな突然の興奮状態「不穏」をテーマにしたいと思います。

「もともと穏やかだった患者さんが、夜になってもなかなか眠らず、
急に暴れだして大声をあげ始めた」
「家では平気だったのに、病院に入院したら急にわけのわからないことを言い出した」

こういった状態のことを、医療の現場では「不穏(ふおん)」と呼びます。
元々は、ごく穏やかに生活しておられた方が、何かの拍子に大暴れを始めたり、
大混乱に陥ったりしてしまうことを指します。

ご高齢の方や、持病をお持ちの方などはちょっとした環境の変化がきっかけとなって、
不穏になってしまうことがよくあります。
そして時には、その後ろに違った病気が隠れている可能性も否定出来ないため、
注意が必要な時もあるのです。

Q 不穏状態になってしまったとき、どんな病気が考えられるのでしょうか?

認知症や、うつ病や統合失調症などの精神疾患、脳炎などの感染症、
甲状腺機能亢進症などの内分泌疾患、などなど、様々な病気で不穏状態が起こりえます。
そのほかにも、お薬(特にステロイド、化学療法、インターフェロンなど)の副作用や、アルコールや薬物の中毒の可能性もあります。
患者さんが不穏状態になってしまったら、まずは医師に相談して、
こういった病気などがないか、調べてもらうことが必要です。

そして、不穏の原因としては、こういった病気が原因なだけでなく、
「せん妄(もう)」という状態が考えられます。

Q 「せん妄」って??

せん妄とは、急激に生じる、一時的な意識障害の一種です。
ご高齢の方、持病のある方などに、環境の変化やストレスなどが加わった時、
特に起き易いといわれています。

「患者さんが入院したら、その夜急に病室で暴れだし、
わけのわからないことを言っていたが、翌朝になったら本人はすっかり忘れていた」などということが、病院では非常によく起こります。

また、在宅医療の現場でも、「患者さんがショートステイから帰ってきたら、急によくわからないことを言って
騒ぎ出したが、数日したら元に戻った」
「寝たきりの患者さんが、体調が悪くなったのをきっかけに暴れだしたが、
体調が元に戻るにつれて落ち着いてきた」
などという経験をされた方も多いのではないでしょうか。

このように、急激かつ一時的に、軽い意識障害が出現して
自分がどこにいるかわからなくなったり、注意や集中ができなくなったり、
興奮・錯乱などの様々な症状が生じることを、「せん妄」と呼びます。

症状は1日の中でも一定でなく、とくに夕方から夜間にかけて
出現することが多くあります。
また、興奮だけでなく、活動性が急激に低下するタイプのせん妄もみられます。

ここまでで大切なポイントは、
せん妄はあくまで一時的な状態であり“良くなる”ということです。

Q せん妄を治すにはどうすればいいの?

第一に重要なことは“せん妄になっている原因を取り除く”ということです。
環境の変化が原因となっている場合には、その環境に慣れてくれば
自然に良くなることもあります。
体調の悪化が原因の場合には、体の状態が戻れば、意識の状態も
元に戻ることが多いです。
そのほかにも、周りの方々がよく話しかけることや、昼は部屋を明るく、
夜は暗く静かにするなどして昼夜の区別をつけ、睡眠時間を確保することも重要です。

それでもうまく行かない場合や、興奮が非常に強い場合には、
興奮を抑えるお薬を使う事ができますので、医師に相談してみて下さい。
「眠れないようだから」「落ち着かないようだから」などと、
市販されている睡眠薬や精神安定剤などを安易に使うと、
興奮がよりひどくなってしまうこともあるので、注意が必要です。

また、せん妄自体は良くなっても、それがきっかけで、認知症などの
元々の病気が悪化してしまうこともあるため、
せん妄が良くなった後の状態にも注意が必要です。

ご家族の方が、もし不穏状態になってしまった時には、
まず、ご本人や周りの方がけがをしないように十分気を付けてください。

そして「もう少しすれば落ち着くだろう」と様子を見たり
「周りに迷惑をかけたくない」と一人で悩んだりせずに
早めに医師に相談し、適切な治療を進めていくことが
なにより大切であるということを忘れないで下さい。

研修医 油木 真衣
2011.08.30