第28夜 緩和医療について〜オピオイドについて④〜

川口です。
もう12月です。気温も下がり鍋料理が美味しい季節です。
今回はオピオイドを使用していても苦痛緩和困難だった症例を取り上げます。

~症例~
50歳 女性
同居しているのはご主人(日中は仕事で不在)
子宮頸部癌 腹膜播種 腸閉塞 多発リンパ節転移 多発肺転移 胸水 腹水 胃瘻(腸閉塞の減圧目的)
中心静脈ポートから高カロリー点滴を行っている。
口から氷程度の摂取なら腹痛は出現しない。
疼痛コントロールはプレぺノンを使用している。

プレぺノン:モルヒネの注射製剤です。シリンジポンプと呼ばれる機械(PCAポンプ)を使用して投与します。

プレぺノン100㎎シリンジ10ml 0.1ml/時で投与しています。
PCAポンプは前回説明しましたね。

上記のモルヒネ投与量で普段はNRS2~3でした。概ね疼痛はコントロール出来ていると思われました。ですがモルヒネの消費量が多い事に気づきました。

Q:何が起きているのでしょう?

癌性疼痛の悪化と思われましたが…


察時含め誰かが傍にいて話をしているとPCAボタンを押さないのですが一人になるとPCAボタンを多く押している事が発覚しました。
一人で過ごす恐怖、不安感が原因していました

リスペリドン液、ジブレキサザイディスなどの液体製剤、口腔内崩壊錠を試しましたが効果はありませんでした。その他の錠剤を試しましたが内服の際に腹部痛が出現し拒否するようになりました。

☆ここで大事なのは精神的な苦痛のコントロール☆
セニラン座薬(抗不安薬であるレキソタンの座薬)を処方しご主人が出発する前に使ってもらいました。
多少ウトウトするようになりましたが不安感が軽減しPCAボタンを押す事も無くなりました。

次に生じた問題は夜間帯に生じた不安感です。
ご主人が傍にいて落ち着かせようとしても効果なく不眠が続きました。
ご本人とご主人から何とか眠りたいと訴えがありました。
日中に使用していたセニラン座薬、ダイアップ座薬(セルシンという抗不安薬の座薬)などを使用しましたが効果は認められませんでした。

毎晩往診し点滴ルートの側管から夜間帯のみドルミカム(麻酔薬・鎮静薬)+生理食塩水の点滴で対応したところ6,7時間寝るようになりました。

~本症例のポイント~
・疼痛を強める原因として不安感、恐怖などがある。
・内服薬に拒否がある。
・患者さん、家族ともに強い薬を使ってもいい、意識が低下してもいいから
不安・不眠を取り除いて欲しいと訴えた。

今回使用したセニラン座薬、ダイアップ座薬、ドルミカムは鎮静薬に含まれます。

Q:鎮静薬とは?

中枢神経系に作用し興奮を鎮静する薬物を示します。オピオイドと抗精神病薬は含まれません。
~がん患者の治療抵抗性の苦痛と鎮静に関する基本的な考え方の手引きより~

~豆知識と補足~
治療抵抗性の苦痛に対して患者の意識を低下させる事を意図して鎮静薬を投与する事を「苦痛緩和のための鎮静」と呼んでいました。
2018年現在、各国で公開されているガイドラインにおける苦痛緩和のための鎮静の定義の中心をなす部分は「苦痛緩和のために患者の意識を意図的に低下させる事(意識を低下させる意図をもって鎮静薬を投与する事)」となります。

鎮静は鎮静薬の投与方法によって間欠的鎮静、持続的鎮静に分けられます。
持続的鎮静はさらに調節型鎮静と持続的深い鎮静に分けられます。

間欠的鎮静
鎮静薬によって一定期間意識の低下をもたらしたあとに鎮静薬を中止して、意識の低下しない時間を確保しようとする鎮静。
調節型鎮静
苦痛の強さに応じて苦痛が緩和されるように鎮静薬を少量から調節して投与する事。
持続的深い鎮静
中止する時期をあらかじめ定めずに、深い鎮静状態とするように鎮静薬を調整して投与する事。

~がん患者の治療抵抗性の苦痛と鎮静に関する基本的な考え方の手引きより~

今回の症例は使用している薬剤からも間欠的鎮静に含まれる要素があります。ですが、在宅医療では限られた薬剤の中で患者さんと主介護者が苦痛に感じていることに対応していく事が必要となります。その中で鎮静薬の中に含まれる薬剤を使用したので最後に鎮静について記載しました。
今回はここまでです。

次回はメサドンというオピオイドについて取り上げようと思います。