荏原ホームケアクリニック 川口です。
今回は、“栄養状態が皮膚トラブルの治療にとって、非常に重要である”
という事についてお話したいと思います。
“床ずれ“ といっても実際に御覧になった事がない方も多いかと思いますので、
今回は、症例と写真を用いてご説明しようかと思います。
在宅医療の現場で取り上げる皮膚トラブルで、一番の問題といって
過言ではないもの、それが“床ずれ”です。
Q 床ずれって何?
- 医療用語では床ずれのことを、“褥瘡(じょくそう)”と言います。
皮膚への血流が乏しくなり、
その部分の皮膚が死んでしまう状態のことを“虚血性壊死”と言いますが、
体のある部分に一定以上の圧力が加わって
皮膚が虚血性壊死に陥ってしまったものを、床ずれ(褥瘡)と言うのです。
ひどくなると皮膚や、さらにその下の皮下組織まで壊死する事もあります。
長期間ベッドに寝ている方や、車いすを利用している方は床ずれが出来やすく比較的栄養状態が低下した場合に多く見られることがあります。
原因としては、栄養が低いと皮膚そのものが“弱く”なってしまうからです。
発生しやすい部位は、骨などが出っ張って、圧迫され易い、
仙骨部(お尻の中心)
坐骨部(お尻の両脇)
大転子部(横になった時にあたる腰の部分)などです。
肩口や後頭部に出来ることもあります。
皮膚が赤くなるだけのものや
“びらん状態”(※1)になったり
酷い場合は、傷口が皮下脂肪や骨にまで達し
クレーターのようにえぐれてしまう場合もあります。
では、実際に起こった症例を簡単に説明します。
80歳代/自分で寝返りが出来なくなった寝たきりの患者さんです。
食事にむらがあり、栄養が不足している状態で、
仙骨部(お尻の中心)と足に床ずれが発生していました。(写真➀、➁)
仙骨部に関しては、すでに血行が途絶え
皮膚は黒く壊死(※2)していました。
さらに菌が繁殖し、感染をおこし、傷口からは膿が出ており、
この状態を放置しておくと最悪な場合、菌が全身に広がって
命を落としかねない危険な状態になってしまうことも想定されました。
そこで、すぐにメスなどを使って黒く壊死している箇所を取り除きました。
悪い部分は取り除けましたが、前回説明した通り
栄養が不足しているとこの後の治癒に時間がかかるどころか、
逆に広がってしまうことがあります。
ですから、改善の第一条件として
まず、1日3食をしっかり摂取して頂くように
患者さんとご家族にお話しをしました。
すると、規則的な食事の結果、足に多発していた床ずれは劇的に治癒しました。
一方、仙骨部に関しては少しずつ改善するものの、
傷口のサイズが大きく、なかなか縮小傾向には至りませんでした。(写真 ➂、➃、➄)
そこで、前回説明したハリスベネディクトの式(Harris-Benedict)を用いて床ずれの治療に必要なカロリー数を計算し、
不足している分については、間食に栄養補助食品を用い、
カロリーを補ってみました。
すると、治癒が遷延していた仙骨部に関しても
傷口のサイズが縮小していったのです。
このように栄養状態を良くすることで、床ずれはかなり改善することが分かります。(写真 ➅)
もちろん栄養状態をよくするだけでなく、
除圧(体位交換)や、毎日の処置を忘れずに続けることも非常に重要です。
床ずれの程度によっては、治癒が数ヵ月かかるといったものもあります。
一度出来てしまうとなかなか治り辛い床ずれは、
患者さんにとっても、介護をするご家族にとっても
大きな負担になってしまいます。
だからこそ、床ずれが発生しないように予防する事が、
本当は一番大切なのです。
皆さんのそばに、御高齢で寝ている時間が多いご家族の方がおられましたら
背中や、足の踵など、一見すると見え難い所を観察してみましょう。
「少し、赤くなっているなぁ」と感じたら、黄色信号です。
長時間、同じ箇所に圧がかからないように
こまめに除圧(体位交換)をしてみること、
そして、十分な栄養が取れているか、しっかり見直してみることが肝要です。
これにより、きっと悪化が防げると思います。
さて、次回は「要注意!夏の肺炎」を予定しています。
是非、楽しみにしていて下さいネ!
【医療用語辞典】
※1 びらん :浅く皮膚がむけた状態を指す
※2 壊死 :皮膚が腐っている状態を指す